見出し画像

良いリズムとはどこにあるか #006

グルーヴは「宿る」のか


連載のつもりもないけれど、リハビリを兼ねて書き始めたら頭のハンドスピナーが少し回ってくれたようなところがあって。前回書きながら、次は手順の不可思議か、黒人ルーツなビートの3種の神器的なことを書こうと思っていたが、しばし関東を離れた数日間、出先で書くつもりが時間も作れぬまま、心の故郷、宮崎の海や山の空気を吸いながら思ったことが、宿る、というもの。

宮崎の高千穂には天岩戸神社というのがある。三重県にも天の岩戸があって、三重の天の岩戸は水が素晴らしい。夏の五十鈴川で、カワガキに混じってドラマーふたりでパンイチで泳いだり、熊野古道もビバーグ覚悟で歩く程度には三重そして紀伊半島はとても好きで、天孫降臨の諸説のジャッジをするつもりもない。そして高千穂神社も天岩戸神社も何時行っても素晴らしく、天安河原はちょっとゾクッとする場所ではある。

そういった、いわゆる有名な場所ももちろんだが、道を進みながら広がる山や川、田畑や民家、よく言われる日本の原風景というものを眺めていると、人々が、神が宿るという言葉を使うことが腑に落ちて感じられる。昔から言われてたのか、広告宣伝的に作られた言葉でしかないのかもしれないが、自分は特定の信仰も持たず、むしろうまいもん教とドラム教くらいの人間だが、それでもなにかそう感じずにはいられないところがある。

自分を含め、人間は、喜怒哀楽をその時々に見せる。笑ったかと思えば泣き、怒ったかと言えば謝ったりしている。むろん完全コントロール鉄壁な人もいるだろうけれど。人間に限らず、動植物、石や岩、自然物、人工物、いろいろなものには表情があり、なにか意志のようなものを見せるときすらある。それは人間の脳のバグなのかもしれないが、命のある無し、脳のある無しに限らず、万物にはなんらかの意志が見え隠れする、と思っている。

良いリズムはどこにあるか、それはきっと答えがたくさんあるのだろう。そして、そのひとつが宿る、という在り方なのかもしれないとも感じ始めている。

グルーヴが「宿る」。なんか今、宿ってんな...みたいな。自分が思いつくことなので、きっととっくに誰かが言葉にしているだろうけれど。

ともすれば、音が出る前から、ステージから発せられるグルーヴというものもあるので、そういうときはすでに宿っているのだろう。音に宿るのか場に宿るのか。そんな風に感じることも、脳のバグか、勝手な妄想か、ファン心理的な期待や日常からの逃避欲の爆発か。ま、どうせ答えなど出ないし、答えというものもまた、宇宙の膨張のようにグングンと広がっているのかもしれないのだが、人間とは概略を掴むことで納得する生き物でもあるからして、そのひとつとして、宿るというものをリストに加えようと思う。

バイブスという言葉も良い表現だなと思うことがあるが、グルーヴとは振動が起きている状態なのであろうとも感じるし、振動をまとった状態をグルーヴと思えば、まぁ確かにグルーヴってのは形や瞬間の周波数特性だけで決まるものではないだろうということと合致するところもあり。

宿る瞬間とは、振動している瞬間かもしれないし、火のような燃える瞬間かもしれない。宿る、というのは、エネルギーの放出や振動と、それに共鳴する他者との間のコミュニケーションかもしれない。安い広告のようなクサイ言葉ではあるが、そうしてかんがえてみると、関係性において生まれる共鳴や引力が、グルーヴ、ひいては良いリズムという認識に至らしめる衝動のようなものなのかもしれない。

そうして宿るやどるヤドル...そんなことを思ってみれば、ヤドカリを思い出し、イタコに連想が至る。個人的に、人間とは、個性があるようでいて、実のところ容れ物であるという想いがある。薬を飲むだけで精神状態が激変した経験を経ると、心もまたただの化学反応かもしれんと思うところもある。己の身に何かを宿らせる、という考え方は古き芸能の中にもあったことだと思うし、これは己を捨てる、個を捨てることで芸事に身を委ねるというような面もあるだろうか。

僕らはよりよい協力的な社会を目指す上で、どうしても責任や義務、自立や互助というものを考えないわけにはいかない。ある面では個人というものを背負い、しかしながら社会では歯車としても機能しなくてはならず、ある意味芸術的な容れ物になる力は封じられているのかもしれない。おそらくそれらは本来、何も相反しないのかもしれないのに、なぜか齟齬が生まれるところまで道筋ができているというような。

己が何かを成し遂げるということも大変なことだが、容れ物となって共鳴の触媒となることもまた、宇宙に漂うエネルギーの昇華のひとつの形態なのかもしれない。

果たして自分とは何か。
その問いが頑なになりすぎれば振動の余地がなくなり、捨てきってしまうと自らの振動を失うのか。共振、共鳴、もしくはそれぞれの振動が場で融合する様が、グルーヴが宿った状態なのか。

言葉遊びもほどほどにと思いつつ、お読み頂いた方は、ありがとうございます。
--

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?